それだけ、言いたかったんだ。


ぽつり、そう呟いた榎木さんの声が、やっぱり少し寂しげに聞こえたのは気のせいじゃないと思う。




「……榎木さん」




はっきりと彼女の名を口にすれば、榎木さんははっと顔を上げた。




「私、意地悪だなんて思ってないよ」

「え……」




それは綺麗ごとなんかじゃない。


榎木さんが私に話さなくてもよかったような過去を晒して、そうまでして本音でぶつかってきてくれたのが伝わってきたから、私もごまかさずに伝えなきゃって思ったの。



「だって、あれは、私が断れなかっただけだから。榎木さんが最初に思ったのは勘違いじゃなくてほんとうに、私、そういう人間だったもの」




だから、榎木さんのことを酷いとか思うよりも、自分が情けなくて仕方なかった。


もしも私が傷ついていたとするならば、それは自分のせい。

だから榎木さんが謝る必要なんてないんだ。



「でも、もし榎木さんが、私に意地悪して申し訳なかったって思っているなら───」




変わらなければならないのは、私の方だったんだ。



「私と、友達になってくれませんか?」



差し出した右手を榎木さんが一瞥した。