少し口を噤んで、また開く。
突如聞かされることになった榎木さんの話。聞き逃してはいけないと思った。


これは、きっと、彼女にとって大切な話だから。



「後からわかった話だったけど、あの子は最初から私を守ろうとなんてしてなかった。私が標的になるやいなや、あっさりと手のひらを返していたんだ。そんな素振り、私には見せもしないで」


「……」


「私の前では、いい顔して、私が喜ぶような言葉を並べ立てて、その裏では私を売り飛ばしてた。それを知ったとき、もう、なにも信じられないって思った」




あれ以来。



「私は大嫌い。表立ってはいい顔するくせに、ほんとうは何考えてるかわからないような───本音とか、本心とか、そういうの隠してる人のこと」




だから、そういう人に意地悪して、試すようなことをしてしまう。そうまでして、自己防衛したいとでも思ってるのかもしれないね。



自分に呆れ笑いするように榎木さんは、薄く口角を上げて、それからふ、と視線を地面に向けた。




「ひよのことも、あの子と同じだと思ってた。だから、出逢ったときからなんとなく身体が拒否反応を起こしてたんだけど。……でも、最近のひよを見てたら、思ってたのと違う気がして。全部私の偏見だったんじゃないかって」


「……」


「だから、ごめん。もう意地悪はしないから」