あとは単純に、人前で目立つのは得意じゃないから、忍者の衣装なら露出する面積も少ないかなって。
忍者の衣装に着替えると、サイズはピッタリで鏡で見た姿は自分でもしっくりくる。しかも着心地もいい。
カーテンの外に出て衣装係の子に確認してもらうと、「ばっちり!最高!」と絶賛だった。
衣装の確認を終えて、劇の練習真っ只中の教室に戻る廊下の途中、町娘の衣装に身を包んだ榎木さんとすれ違った。
そう、結局時代劇の最も華のあるヒロイン、町娘役は榎木さんに決まったんだ。
というのも、皆から『桜庭さんがやればいい』と猛烈にプッシュされたところを断ったため、代わりに私が推薦することになって。
結果的には私が選んだことになってしまったけれど、やっぱりヒロインは榎木さんが適任だと思う。
華やかで可愛くて、目を惹くオーラがあるもの。
そのまま、榎木さんの横をすり抜けようとすると。
「……桜庭ひより」
榎木さんの声が私を引き留めた。
いつもの彼女は私のことを『桜庭さん』と呼ぶのに、なぜかフルネームだ。
戸惑いつつ、首を傾げる。
「榎木さん……?」
「“由良” でいい」
ぴしゃりとそう返されて、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。