変わる機会はいくらでもあったのに、挑戦もせずに諦めて、変わってこなかったのは私だ。



そんな自分を、変えたいと思ったんじゃなかったの?
変わるって、心に誓ったんじゃなかった?




頭の中を駆け巡るのは、たったひとりの声。



その声を聞くと、いつもどきどきして。

それから、いつからか、その声を聞くと落ち着いていられる自分がいた。




『せっかく考えたのに勿体なくない?』

『俺は、桜庭さんのそういう考え方が好きだから』




いつだったか、私の背中を押してくれた砂川くんの声。

自分では見つけられなかった、私のいいところを見つけて、拾い集めてくれた。

溢れんばかりに拾い集めて、私に渡してくれた。



砂川くんがくれたきっかけを、活かすのも活かさないのも私次第だ。




「……っ」




机の中の、あるものに手を伸ばした。

きゅ、と目を瞑って。



勢いのままに、生まれた勇気が萎んでしまわないうちに、右手をそっと挙げた。

その手が震えているのは、隠しきれない事実だけど。



“変われるよ”



いつか砂川くんがくれた右上がりの5文字が、私にはついているから。

もう何も、怖がることはない。




挙げた方とは反対の手で、机の中のスケジュール帳に挟んでいた栞の輪郭をそっとなぞった。私にとって、何よりも強力なお守りなの。