砂川くんが問い詰めるほどの何かがあるわけじゃない。

だけど、砂川くんの真剣な瞳を前にして何も言えなくて、息を呑んで押し黙っていると、砂川くんがはっとしたように私の腕を解放した。



「やっぱいい。今の、忘れて」

「ごめ……」



何故だかはわからないけれど、砂川くんを不快にさせてしまったことだけは確かで。

謝ろうとすると、それを砂川くんが遮った。



「別に、謝ってほしいわけじゃない」

「……でも」



ぴしゃりと言い放った砂川くんは『謝ってほしいわけじゃない』と言いつつも、纏っている空気はいつもよりも鋭い。


ひやり、と心に冷水を浴びせられたような心地になる。


気まずい沈黙が一瞬流れて。



「……俺の方こそごめん。責めてるわけじゃ、ないから」



そのまま、砂川くんはくるりと振り返ったかと思うと、何も言わずに足早に去って行ってしまった。



その背中を追いかければよかったのかもしれない。


砂川くんの名前を呼んで、その腕を掴んで。


自分の気持ちをちゃんと伝えて、砂川くんの話をちゃんと聞くことだってできたかもしれない。



────それをしなかったのは、できなかったのは、私自身で。


その場に呆然と立ち尽くした私の腕を引いたのは、いつの間にか歩み寄って来ていた恭ちゃんだった。



「おかえり、ひより」

「……うん」



浮かない顔をした私の頭を、恭ちゃんがそっと撫でてくれたけれど。


それでも、私の心はざわざわして落ち着かなかった。