私は砂川くんのことが “好き” で、砂川くんに “恋” をしていて。


私の感情に名前をつけるのは至極簡単なことだけど。


でも、この名前をつけることさえかなわないような脆い関係が壊れてしまうのが怖くて、『好き』だと口にしてしまえばすべて崩れてしまう気がして、どうしても口にできなかった。



やっぱり私は弱いのかな。

でも、もう少しだけこの空気に酔っていたい。




微動だにしないで、惚けるように床に座り込んで砂川くんを見つめる私と、そんな私から目を離さない砂川くん。



いつまでそうしているんだろうと頭の片隅で思いながらも、動けないでいると、砂川くんの身体がゆらりと揺れる。



一瞬、ぐっと距離が縮んで、それが幻だったかのように次の瞬間には彼は立ち上がっていた。




「……続き、しよっか」

「うん」




砂川くんの瞳に、少し切なげな光が揺らめいて、そのことに動揺する。

その動揺を隠しつつ、頷いたけれど。





どうして砂川くんがそんな顔をしているのか、その理由はいくら考えてもわからなかった。



無心にシャーペンを動かしながら思う。

答えのない恋心より、答えがたったひとつで、模範解答も解説もある数学のほうがよっぽど簡単だ、と。