眠りについた病み上がりの葵依ちゃんがまた風邪をひいてしまわないように、タオルケットをかけて。


それから砂川くんの部屋に来たの。




「葵依さ、誰かが隣に居ないと寝れないんだよ。ありがとう」



ありがとう、と言う砂川くんに大したことじゃないよ、と首を横に振った。



「桜庭さん」




砂川くんが私の名前を呼ぶ。

何でもない自分の名前も、きみに呼ばれるときらきらと輝きはじめるから不思議だ。



ふたりの距離が自然に近づいて。

砂川くんの顔がゆっくりと近づいてくる。



電車の中で、砂川くんと重ね合わせた熱が、また戻ってくる。


砂川くん、とその名前を呼び返そうとしたとき。




「……あ、」




ケータイの振動が肌を伝って。

バイブレーションが通知したのは、恭ちゃんからのメッセージ。



[まだ帰ってねーの?もう暗いし迎えに行くから、場所送れ]




「恭ちゃん、迎えに来るって……」



メッセージの返信を打ちながら、砂川くんにそう言うと、彼は近づけていた距離をすっと離した。



……残念、なんて思ってしまう私は随分わがままになってしまったらしい。