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家に帰って、夕飯を食べてお風呂から上がって。

眠る直前、自室のベッドに座りながらも私はどこか上の空だった。




「ねえ、ダンディー」



話しかけても、返事はない。



それもそのはず。

この部屋には私ひとりしかいなくて、今話しかけたのはベッドに腰掛けたくまのぬいぐるみなんだから。



灰色の、抱き枕にちょうどいいサイズの大きなくまのぬいぐるみ。



幼い頃、一目惚れで気に入った私にお母さんが買ってくれたそれは、テディベアのような可愛い見た目ではなく。



爪も牙もちゃんとついていて、目も鋭い、リアルで凶暴な見た目のぬいぐるみなのだ。



小春は未だに怖がっているほどだけど、私は今でもお気に入りで、“ダンディー” と名前を付けて、家での話し相手にしている。



そんなダンディーを引き寄せて、胸の前で抱きしめながらぽつりと話しかける。




「今日、知らない男の子に助けてもらったの」


「そしたらね、その人の妹が小春と同じ保育園に通ってて」





今日起きたことを、反芻しながら言葉にする。



すると、



『……あんた、優しいんだな』



何度もフラッシュバックするのは、私に向けられたあの言葉と笑顔。



まるでカメラで切り取ったかのように、鮮明に焼き付けられた光景。





「今日の私、おかしいのかな」


「瞼の裏がチカチカして、きらきらして見えたの」



あのひとの姿は
眩しくて、きらきらして見えたんだ。


助けてもらった瞬間も、そのあとも。
ずっと。




「それに……、胸がどきどきして苦しい」




鼓動がはやくなる。


あの人と目が合った瞬間に、
魔法にかけられたみたいに。




思い出すだけでもどきどきするんだ。