「砂川くん」



椅子を動かして、少し彼との距離を縮めてみる。

あともう一歩分近づけば触れてしまうような、そんな距離。


どきどきとうるさい心臓の音が、砂川くんを起こしてしまうんじゃないかと心配になる。




───ねえ、砂川くん。


今までの自分を変えることってそんなに簡単なことじゃないと思うんだ。


変えようと決めてあっさり変われるようなものなら今ごろこんなことになっていないはずで。


強い意志がないと、できないことで。


それがわかっていたから、ずっと目を背けて逃げてきた。

諦めて、それで自己防衛して、中途半端な生き方をしてきた。




だけど私、やっぱりこのままじゃ駄目なんだ。

変わりたいし、変えたい。



砂川くんが自信を持っていいって、諦めないでって、私の考え方が好きだって、言ってくれた。


それが本当に嬉しかったから、その言葉を無駄にしたくないと思った。




それに、それはきっかけにすぎなくて。


私自身もほんとうは嫌だったんだ。

心の底では納得のいかないまま、ずるずると毎日を過ごすのは。



色のない毎日の何かが変わるのなら、頑張りたい。ううん、頑張れる。