「おにい……ちゃん?」
ぽつりと呟いて、改めて彼に視線を移す。
「……葵依の兄、です」
驚きのあまり開いた口が塞がらない私に、彼は簡潔にそう述べた。
……なんだ。
勝手にびくびくしていたけれど、彼はストーカーでもなんでもなく、ただ妹たちが同じ保育園に通っていただけのことだったんだ。
拍子抜けすると同時に、思い込みで怖がってしまったことを心の中で反省した。
「葵依ちゃんとはね、今日お友達になったの!」
「今日?」
「うんっ!ねっ?葵依ちゃん!」
小春が小首を傾げながら葵依ちゃんを手招いた。
名前を呼ばれた彼女は、戸惑いながらもゆっくりとこちらに近づいてきてくれて。
わ……っ、可愛い。
男の子の陰に隠れていてあまり見えていなかったけれど、羨ましいほどさらさらの黒髪は、兄である彼にそっくり。
一瞬だけちらりと見えた瞳も、くりっとしていて可愛かった。
だけど、彼女はすぐに俯いてしまって。
その様子に、小春とは正反対の性格なんだと察する。



