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恭ちゃんが帰って、それから少しして。

部屋のなか、ひとりきり。




ベッドの上の灰色の塊────くまのぬいぐるみに手を伸ばした。

そのままぎゅっと胸の前に抱きしめて、顔をその背中にうずめる。




「……ねえダンディー」




名前をそっと呼んだけれど、その後何を言おうと思ったのかわからなくなった。


ううん、元からそんなのなかったのかも。
ただ、誰かに縋りたかっただけ。



『ほんとうに少しでも思わねえの? もっと、アイツのこと知りたい、とか近づきたい、とか好かれたい────とか』




少しも思わなかったわけじゃない。

好きでいるだけで十分、なんてそんな綺麗事だけではこの想いは成り立たない。





砂川くんのことを、もっと知りたい。

もっと近くで同じ時間を過ごして、あわよくば。





だけど、いくら想像してもだめなんだ。




砂川くんの隣に私の姿を描くことができない。きみの隣にはもっと素敵な女の子が並ぶべきで。




「……私じゃ、だめなんだよ」




ぽつり、零れた声は
思っていたよりもずっと弱々しかった。