その後、軽音楽部で後輩たちに教えていた。


「すごい……指の動きどうなってんの!?」


「速くしようとすると押さえられないし間違う……」


「最初だからゆっくり始めていこう。そう、いい感じ」


皆、苦戦しながらも楽しんでいる。微笑ましいなと見ていた。


「あやっ!」


メレンダの足が何かのコードに引っ掛かって転んだ。


「大丈夫!?」


メレンダの元に駆け寄る。
周りの中学生も心配そうに見ていた。


「いたたっ……でも、手をついたから大丈夫……」


手は赤く、膝は少し擦りむいていた。


「傷を洗ってから絆創膏貼ろう」


「洗わなきゃだめ?」


「埃とかついてるからね」


メレンダはあまり洗いたくないらしい。しみて痛いのはわかるけど、傷口は綺麗にしなければいけない。


「ごめんね、ちょっと待ってて」


「はーい」


僕がいなくても、自主的に練習しようとしていた。僕は安心してドアを閉める。


メレンダを手洗い場までつれていく。
膝を濡らすと、メレンダは痛そうにした。それでもスカートの裾を握って我慢していた。


絆創膏を貼ろうとしたとき、メレンダが唐突に聞いてきた。


「フィウメは私のこと、一番の友達って思ってる?」


手を止めて見上げると、メレンダは不機嫌そうにしていた。
良いとは言えない天気がそう見せていただけかもしれないが。


一番、と聞かれると困る。友達に順番はつけたくない。
それに、友達を脱出したいと思っている。
黙っていると、メレンダはスカートの上の指をとんとん動かす。
ここで本当のことを言うべきか……。


「一番の友達と言うより……好きな人だよ」


「え!?」


メレンダは驚いて後退りした。その反応に僕は驚いていた。


「その……そんな風に思ってもらえてるなんて……。わっ私も好きだけど……!でも、何で他の人にもフィウメと呼ばせたの!?私だけが呼んでたのに……一番じゃなくなったからと思って、心配になったの」


そういうことだったのか。
いつの間にか永田たちにもフィウメと呼ばれるようになっていた。僕は気にしていなかったが、あだ名を付けたメレンダは気にしていたようだ。


「大事な友達だったし、フィウメって気に入ってたからね。でも……」


あの雪の日のように、メレンダを抱き寄せた。


「これは、メレンダにだけだよ」


「本当に!?他の子にはしないでね!」


「当たり前だよ!」


「でも蔵王さんにはしそう……。だって蔵王さんとの距離が微妙に近いもん」


メレンダからこんな言葉を聞くことになるとは。
疑うことを教えたのは自分だ。少し寂しいけど、人は変化するものだ。それに、僕に好意を持ってくれているから聞けたんだ。


「気を付けます」


「ふふっ。ねぇフィウメ」


「何?」


「私に色々教えてくれて、ありがとう。私はもう、騙されやすいだけのメレンダじゃない。たまに騙されることはあるけど……」


冷えた廊下を並んで歩く。
僕がメレンダを変えた?違う。メレンダが僕のことを変えてくれた。


話すと長くなりそうだから、帰りに。
でもこれだけは言っておこう。


「こちらこそありがとう」