切符を買って、駅の椅子に座る。
きっちり閉めたボタンをまた外し、メレンダを包み込む。


「暖かい……寝てしまいそう」


「寝たら起こすけど……すぐ電車来るよ」


「じゃあ起きとく……」


メレンダがもぞもぞ動き出し、向かい側のホームを見ていた。
帰宅するのであろう高校生やサラリーマンが電車を待っている。


「あ、美味しそうなにおいがしてきた……マドレーヌとか?」


近くにあるケーキ屋さんから漂ってきたらしい。
お腹がもうそろそろ何か食べたいと訴えてくる。音は出すなよ?


「今はお味噌汁の気分……」


「僕も」


求めているのは夕食だった。
暖かい家に帰って食べるんだ。


隣の踏切から警報が鳴る。赤い光がこっちにも少し広がった。


電車が来て向こうが見えなくなる。
降りてくる人を待ってから、コートから出てきたメレンダと一緒に乗った。