私は駅から出て、自分の穿いているタイツが伝線している事に気が付いた。

けれど、不思議と鬱な気分にはならなかった。

きっと美味しくないレモン味の飴玉をくれた彼のおかげだ。

「タイツ買わなきゃ…」

私はいつもよりデニールの低いタイツを駅近くのコンビニで買った。


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「ただいま」

シンと、静まり返って返事はない。

両親は共働きで仕事柄帰りが遅い。

朝だろうと夜だろうとご飯を作るのは自分の仕事だ。

今日は作る気になれなかったので、カップ焼きそばで済ませる事にした。

「久しぶりのカップ焼きそばも美味しい。」

ただ、唯一助かるのは両親が大体外で食事を済ませてくれると言う事。

「からしマヨネーズがいい味だしてる。」


けれど家族で食べる時間が全くないわけでもない。

朝は必ず一緒、私がパンを焼いてスープを並べて皆が食卓につく。

「ご馳走様でした。」

私はどちらかというと朝より夜一緒に食べたいと思っている。

夜ほど気分が鬱になるから。

「あ、いただきますって言うの忘れてた。」


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お風呂からあがると、先に帰っていたお母さんがリビングにいた。

「おかえり。」

お母さんは新しいシャンプーとリンスを袋からだして机に置いた。

「ただいま、もうお風呂入ったの。」

濡れた髪の毛を拭きながらお風呂に入った事を後悔した。

「うん、そのシャンプー高いやつじゃない?
お風呂入らず待っとけば良かった…。」

「お母さんが1番最初に高いシャンプーを使うことになって残念?」

お母さんは、笑いながらお高いシャンプーとリンスを持ってお風呂場に向かっていった。