「侑斗さんって…」


再び車を走らせ、少し経ったところで私は気になっていたことを聞いた。


「彼女いないんですか?」

「……どう思う?」

「もしいたら、今頃ここにはいないですよね」

「あはは、そうだね。彼女はいないよ」

「じゃあ、好きな人はいるんですか?」

「なんだか今日は積極的だね。奏美ちゃん」


クラスの女子たちも気にしていた。
侑斗さんに本気で恋をしている子もいるくらい彼は大人気。

本人は気づいていないのかな。


「好きな人はね~……いるよ」

「え!?」

「そんなに驚くことかなぁ」


侑斗さんは口を尖らせてぶつぶつ文句を言っていた。
どうやら私の反応が気に障ったようだ。


「誰なんですか? 好きな人って」

「知りたい?」

「教えてください!」

「じゃあ、“好き”って10回言って」


言われたとおりに「好き」と唱える。


「ありがと」

「……なんですか!」


私、騙されたの!?

侑斗さんは悪戯が成功した子供みたいに楽しそう。

ちらりと私を見て、ふっと息を漏らす。


「そういうところも可愛い」

「侑斗さん…?」


いつもは子供っぽくて、甘え上手で、どこか放っておけないような、そんな雰囲気なのに……

今は、違う。大人の男の人だ。


「僕の好きな人は…」


信号が赤になる。
整った綺麗な顔が私の方へ向けられた。


「……奏美ちゃんだよ」


今なら、フリーズしてしまう気持ちがわかる。

侑斗さんが私を「好き」だなんて。


「嘘だと思ってる?」


コクコクと首を縦に振ると、侑斗さんは「だよね……」と苦笑した。