「ちょっと待ってて」


空いている椅子に座って和希くんを待っていると、知らない人に声をかけられた。


「可愛いね。1人?」

「あ、いえ…」

「俺と遊ばない?」


典型的なやつだ……

助けを求めたいのに、うまく声が出ない。


「ねぇ、行こうよ」

「や、やめてください」


腕を掴まれて無理やり立たせようとする 知らない人。

怖い。
ホラー映画よりも、無意識に抱きついてしまった 私よりも……怖い。


どうすることもできずに泣きそうになったその時——


「……オレの彼女に何か用ですか?」


いつもより低いけど聞き覚えのある声が聞こえた。


「チッ、連れがいたのかよ」


そう吐き捨てて男の人は去って行った。


「はい、これ」


手渡された水を受け取りながら「ありがとう」と無理やり笑顔をつくった。


「無理して笑わないほうがいいと思うけど。せっかく可愛い服着てるんだから」

「え?」

「自然の笑顔の方がその服も映えるってこと。何回も言わせないで」

「あ、うん。ごめん」


和希くんは隣に座ってため息をついた。


「そうやって自分を押し殺していくつもり? ホラーが苦手なら観なければよかったじゃん。気分が悪くなって嫌な気持ちになってるのは自分でしょ? これからも自分を傷つけながら生きていくわけ?」

「みんながいるから大丈夫かなって思って……」

「ふーん。じゃあ、さっき声かけられた時は? もっと抵抗するべきだったんじゃない?」

「それは、怖くて声が出なくて…」

「オレがもう少し遅かったら、連れて行かれてたね」


和希くんの言う通りだ。