夜通し彼に狩られ『ごめんなさい』と『赦して』以外、口にした記憶がない。頭の芯も躰も、死ぬほど重たくて目醒めた朝。それでも自分の躰に巻き付いていた腕の重みは、今までになくひどく愛おしいものだった。

こっちを向いた綺麗な寝顔に、じっと見入っている内に起こしたくなってしまう。額にかかる前髪にそっと指を絡めてみたり頬をなぞったり。思い付いてキスしたら、ぐっと引き寄せられた。・・・やってみるものね。
 
「悪戯っ子だね睦月は・・・」

頭上で寝起きの気怠げな声がする。

「あとでお仕置きされたいの・・・?」

クスリと笑んだ気配に。

「・・・うん。いっぱいして・・・」

彼の素肌に顔を寄せたまま答えた。思ったまま。すぐだろうと思ったのになかなか返事が返って来ない。訝しく思って顔を上げたら。口許を覆って視線を泳がせた愁一さんが。こんな意表を突かれた表情もするのかと思わず目を丸くした。 

「愁一さん?」

「あ・・・いや」

歯切れまで悪いなんて。二度三度、瞬き。
ややあって口許にやった手を顎の下にずらし、睦月、と愁一さんは難しそうな顔を向ける。

「一つだけ約束してくれないかな」

最後は苦さを隠そうともしないで深く吐息を漏らした。

「年甲斐もなくて悪いけど。・・・そういうお強請りは僕の前だけにしなさい、絶対にね」