瞬間に嫌だと心が悲鳴を上げていた。

云えない。言いたくない。喉元まで出かかる、『本当は』。呑み下そうとして胸につっかえて。苦しくて痛くて、辛くて悲しくて。どうしようもなくて涙が溢れた。幾らどんなに時間を引き延ばしても答えはきっと同じ。私の還り付く場所は。

あの時、愁一さんのお店の前で雨宿りしてなかったら。私の恋人はあなただったかも知れない。でも出逢ってしまったのは、あのひとだった。顔を背け濡れた頬を手の甲で拭う。

片方の朱い糸をゆっくりと小指から解いてゆく。出来るものならこのまま繋いでいたかった。・・・願ってた儚く。
 
「・・・・・・もう会うつもりはありません。だから、忘れてください」 
 
目を見たら何も言えなくなってしまう。精一杯を伝えるために逸らし続けて。拙くても想いを込めて。

「・・・・・・私じゃ駄目です・・・」

彼ならすぐに別の誰かが見つかる。そして大介さんが願う家庭を今度こそ、その人と育んでくれたらいい。

「・・・大介さんは好い夫にもパパにもなるのも間違いないし、こんなところで寄り道するの・・・勿体ないもの・・・・・・」

心から祈っているから。あなたが幸せであるようにって。

「好きになってくれて・・・ありがとう。・・・・・・ごめん、なさ・・・」
 
必死に嗚咽を堪えたけれど、声が震えて最後までちゃんと言い切れなかった。後悔とか良心の傷みなんかじゃなく。純粋に失う寂しさが耐え難かった。

彼に応えられないのだから当然の罰だと、苦い涙が溢れて止まらなかった。