「睦月」

食事を終え、レストランを出てエレベーターホールに向かうものと歩き出しかけた時。大介さんの声が隣りからでなく、後ろから聴こえたことに気付いて振り返った。

お店に出入りする人を避けるように通路の端に立っている彼の許に歩み寄って、何も考えずに視線を傾げる。

「どうかした?」

大介さんは一呼吸おいてから、私を見つめておもむろに口を開いた。

「・・・ホテルに部屋を取ってある。映画はまた今度にしないか?」
 
息を呑んで視線を逸らす。声が喉元でただの塊になる。なのに心は激しく揺さぶられて。なにかを吐き出したがってる。

愁一さん。
私は。
あなたを愛してる。
あいしてる。
愛してる・・・!


「・・・ごめ、・・・なさ・・・」


顔を両手で覆って喉から振り絞ったそれが、誰に向けたものだったのか。自分でも分からないまま。