今朝は晴れているけれど、少し風が強い。ロングスカートと厚手のタイツ、ブラウスの上に裾に房飾りが付いたポンチョ風のニットセーターを被る。コートはダウンにするかダッフルか悩みどころだった。移動は車だし、まさかこの寒空にずっと野外ってチョイスは羽鳥さんは無いって思うから。持ち歩きに楽な方を選ぶ。
 
「睦月、手ぶくろ忘れないで」

念押しする愁一さん。・・・・・・素手の手繋ぎ防止とか?


約束の10分前に『もうすぐ着く』のラインが羽鳥さんから。不動産屋の『もうすぐ』は本当に『すぐ』。ブーツを履きお店前で到着を待つ。隣りにはラフにブルゾンジャンパーを羽織った愁一さん。

やがて黒のスポーツセダンがウインカーを出しながら寄って、静かに手前で停車した。運転席から降りてきた羽鳥さんは、白のタートルニットにスェードのライダースジャケット、ヴィンテージジーンズにウエスタンブーツのスタイルで。スーツ以外の着こなしも感心してしまう。

「おはようございます保科さん」

真っ先に愁一さんに挨拶をした彼。

「今日は遠慮なく彼女を口説くつもりですが構いませんか?」

堂々と言い切ってみせるところが強心臓。本当に遠慮がない。
 
「それで睦月の気持ちが変わるなら単に僕の実力不足でしょう。もちろんすぐに修正させてもらうけどね」

目を細め、口角を上げて見せる愁一さんの表情もやっぱりどこか不敵で。それを受けた羽鳥さんの目に少し力が籠ったように見えた。
 
「同じ土俵には立たせていただきますよ?」

「・・・睦月がそれを望むなら」

二人の間の導火線が音を立てて火花を散らす。・・・あれからずっと燻ったままだったのが一気に煽られて。ぐっと距離が寄った。

最後の会話の意味だけ私にはよく分からなかったけど。どちらも大人の対応で諍(いさか)いにならないのがせめてもの救い・・・かも知れない。

「気を付けて行っておいで」

車に乗り込む前、やんわりと笑んだ愁一さんと一瞬、深く目を合わせキスを交わす。

「・・・行ってきます」

細く笑んで言うと彼が頷き、私の髪を撫でた指が離れた。

助手席から窓越しに手を振ったのを見届けて、羽鳥さんは「行くよ」とミラーを確認しつつ車を発進させた。