あの時は電話越しで、どんな表情をしていたのか分からなかった。本当は私を責めたかった?赦せそうになかった?優しくできないからと貴方は言った。そうやって私は甘えて傷付けてる・・・?

少し泣きそうだったかも知れない。鼻の奥がつんとして目頭が熱い。愁一さんは黙って深く見つめるだけ。胸が締め付けられて・・・息が苦しい。沈黙に耐え切れなくなって何かが弾け散りそうだった。

「・・・きっと酷くするだけじゃ済まなくなる」

彼の淡い笑みが、寸前でそれを押しとどめた。

「睦月が思ってるよりずっと僕は貪欲に君を愛してる。いま抱いたら正気でいられない。・・・だからね」

大きな掌が私を頬を包むように触れ、スイッチを切り替えたようにふわりと微笑む。

「それとも・・・こんな僕は嫌いになる?」

羽鳥さんの存在を許容するほどに私を失うまいとする貴方。自分は到底そんな寛容になれやしない。私は私だけを愛してくれる人以外、愛せない。なんて都合勝手なワガママ。愁一さんがいるのに羽鳥さんと繋がる糸を弄ぶみたいな、私のほうがどれだけ。

「・・・・・・愁一さんは・・・?」
 
こんな私を好きでいられるの?
伏目がちに呟く。

「僕にそれを訊く前に」

顔を寄せられた気配に無意識に応えてキスを受け止める。ずい分と柔らかく啄んだだけでそっと離れた唇。

「睦月が答えて」

「私が愁一さんを嫌いになるわけない・・・」 

すがりつくように彼に躰を寄せた。回された腕の中で愛おし気に髪を撫でられながら。

「じゃあ・・・僕の答えは明日の夜までお預けにしようか。今日はゆっくりお休み」

 優しい声はそれ以上の有無を言わせなかった。
 
「おやすみなさい・・・」


どこか。心の端にささくれを残されたまま。確かに愁一さんの温もりに包まれてるのに首筋を冷やりとした空気が撫でる。それでもいつしか私の意識は落ちて。朝を迎えていたのだった。