そのまま駅を通り抜け、自分のアパートよりすっかり滞在時間が長い愁一さんの家に帰る。

「ただいま」

「おかえり睦月」

玄関から真っ直ぐリビングに顔を出すと。キッチンからやんわりと笑みをほころばせて彼が振り返った。

「もうじきご飯できるよ」

「ありがとう。着替えてくるね」

今日はおでんかな。まろやかな出汁の香り。つみれとかハンペンとか、私は割りと練り物が好き。

ダイニングテーブルで、おでんの具材が行儀よく並んだ熱々の土鍋を二人で囲んで。タコの足やイカのゲソが刺さった串モノに雑じって、赤いタコさんウインナーが可愛く3つ、団子になってる。愁一さんの遊び心が微笑ましくて嬉しい。

私も彼もそれほどお喋りなタイプじゃないから自然に会話も途切れるけれど、居心地の悪さを感じたことは一度もない。『そう言えばね』とどちらからともなく、その日に目にした些細な日常を聴かせたり。そこからまた話題が広がったり。

洗い物は必ず私の役割にしてもらって、でないと愁一さんは甘やかして何もさせようとしないし。それが片付け終わったらソファで食後の珈琲。私たちのルーティン。最初は彼の隣りに座ってるんだけれどすぐに。

「おいで」

それが合図でだいたい愁一さんの膝の上。胸元に抱き込まれ髪を撫でられてはキスが落ちる。

甘やかされてるというより可愛がり、というか。来月に30歳になる私は彼にしてみたら頼りなくて幼く映るのかしら。複雑な心情・・・・・・。