「・・・愁一さんは『優しい狼』なんですよ」

きっと誰も温厚な羊だと彼を勘違いしそうだけれど。臆病で優しい狼。自分の爪痕を刻んだ獲物(わたし)を野に放すけれど、決してテリトリーから逃しはしない。本当は食べてしまいたいのに、じゃれついたり甘噛みで我慢する。食べてしまったら骨も残らない。・・・何も残らない。

孤高の狼。孤独は飢えより哀しい。大事に大切に愛情を込めて獲物を生かす。死すまで共に・・・と。

羽鳥さんの腕の中でそんなことを思った。最後の最後には食べられたい、愁一さんに跡形もなく。いつかもっとずっと長生きした先で。

「羊に見えてるなら気を付けた方がいいですね」

顔を上げてクスリとする。

腕から抜け出そうとして引き留められキスが繋がった。奪おうと追いかけられるキス。熱が籠ったからか離れた口許で息が白かった。

「お前どっちの味方なの」

呆れたような、不本意そうな羽鳥さんを真っ直ぐ見据えた。

「私は保科愁一のものです。・・・少なくとも今は」


あえて。隙間を埋めずにおく。羽鳥さんがそこに入り込んで、こじ開け広げてゆくのか。愁一さんが狭めてゆくのか。

神のみぞ知る。