黒のスポーツセダンで時間通りに迎えに来た羽鳥さんは。キレイ目の紺色のシャツにベージュのパンツ、革のトラッドシューズと、スーツ姿とは違う爽やかさを見せていた。

「いつものプリウスじゃないんですね?」

うちの会社は燃料費を支給して車は持ち込みだ。お客様の案内や物件調査に出かける際も自家用車を使う。だからてっきり今日もその車だと思っていた。

「仕事じゃないからね」

ニンマリとされ、私は愛想笑いと困り笑いの中間で曖昧にリアクションを濁した。

「なんか食べたいのある?」

普段より気さくな話し方で、運転しながら彼が私に訊ねる。考えてなかったからそう答えると、「じゃあ俺の知ってる店でいい?」と、ウインカーを出して交差点を右折した。

「吉井さん、休みの日は何してるの?」

さっきから質問が途切れない。 

「だいたい家のことやって半日は潰れますね。後は買い物に出かけたりとか」

「ああ、だよね。俺もまあそんな感じ。たまに洗車までやるとそれで一日終わる」

「分かります。私も車持ってた時は自分で洗車してましたから」

「へぇ、女の人ってあんまり自分じゃやらないでしょ。珍しいね」

「車に愛着持つみたいで綺麗になったのを見るのが好きというか・・・」 

「その辺は気が合いそうかなぁ、吉井さんとは」

さり気なくアピールされてるのも、走る密室の空気を壊さないよう濁すしかなくて。
断るタイミングを計りながら一緒にいる自分が滑稽で・・・とても卑怯な気がした。