セルロイド・ラヴァ‘S

「そんな顔しないで。むしろ君なら・・・他の誰かに好かれても当然でしょう?」

柔らかな声に顔を上げて隣りを見た。愁一さんは穏やかな表情でハンドルを握り、前を向いたままで続ける。

「僕は睦月を手放しはしないけど縛り付けるつもりもない。だから安心して行っておいで」
 
「・・・ありがとう、ございます」 

歳上の余裕なんだろうか。何にせよ彼が不快に思ってはない様子に胸の内で安堵した。

「睦月」

「はい?」

「そろそろ敬語はやめてくれないかな。確かに僕の方が上だと思うけど、・・・来年の1月で幾つになるの?」

視線を傾げられて。私達はそれすら知らずにこうしてる。クスリとした愁一さんに私も苦笑い気味に。

「30歳。・・・愁一さんは?」

「僕は来月で38。睦月と9つ違いだね。がっかりさせたかな?おじさんで」

 首を横に振る。

「35歳くらいかと思ってた、若く見えるし。私だって30でオバサンですよ?」
 
「僕からしたら睦月はずっと可愛いよ。歳なんか関係なくね」

ふわりと愁一さんが甘く微笑む。
ああ。これにあたしは心ごと持っていかれたんだった。

「ちなみにバツイチも僕が先輩。・・・睦月とは似た者同士かな」

ちょうど信号待ちで。伸びてきた腕に頭の後ろを掴まえられ、視界が遮られたと思ったら少し
だけ乱暴にキスが貪られてすぐに離れた。

「だから僕といるのはきっと楽だよ。また誰かの専属になるのより」 

口の端に淡い笑みを掠めた愁一さんは。そう呟いて、滑り出した車のアクセルを踏み込んでいった。