結局ふたりがベッドを出たのはお昼近く。意外にも保科さんは寝起きがいい方ではないようだ。途中から完全に起きていた私はお腹の上に腕を乗せられたまま、彼を起こすのも忍びなくて。ひたすらぼーっと天井を見上げてる羽目になってた。

着替えも無いから保科さんに大きめのTシャツを借り、ミニワンピース的な恰好でちょっと居たたまれない。Tシャツにスェットっていう彼の姿も当然ながら見慣れないし、寝癖のついた髪とか寝足りなさそうな顔とか。お店に立つ姿とのギャップが埋まるのは、もう少し先かも知れなかった。

珈琲とサンドウィッチで軽く食事を済ませ、私はアパートに帰るつもりだった。どう一緒にいていいのか、まだ距離感を捉えあぐねてもいる。若い子達なら二人でいるだけで楽しいんだろうけど、お喋りが弾むって歳でもないんだし。あまり彼のプライベートな時間を邪魔しても悪い。それにお店だって。

「・・・あの私、そろそろお暇(いとま)しますね」

洗い物を終えてソファに座ってテレビを見ていた彼の許に行き、そう伝える。

保科さんは一瞬、視線を止めて。それから「何か用事でもある?」と訊ねた。

「いえ。でも保科さん、お店もあるでしょうし・・・」
 
遠慮がちに笑むと、柔らかく手首を取られて彼の膝の上にすとん、と横向きに座らされてしまった。

「僕の名前、教えたでしょう?」

まずはそこから。

「明日の朝まで帰すつもりは無いんだけどね。買い物がてら一緒に行って、睦月のアパートに寄るから。泊まれる用意だけしてもらおうかな」

ふわりと悪戯気味な笑顔で覗き込まれた。
返事に詰まり、僅かに抵抗を試みたけれど。

「あの、でも」

にっこりと無言の微笑みで却下されてる。押しが強い訳じゃないのに・・・どうしてか逆らえない。愁一さんには。