瞬くたびに

小さく口に運んでみる。

卵の優しい甘さとダシがきいた、シンプルな味が体にしみこんでゆく。

「おいしい」

葵のつぶやく声に、結々はほっとしたのか少し泣きそうな顔をした。

「よかった。まだありますから、たくさん食べてください」

ベッドの横に座って、葵が食べるのを眺めている結々に、葵が問いかける。

「俺、倒れてたの?」

「はい、ベッドの上に倒れててびっくりしました。あ、勝手に入ってきてごめんなさい。おかずを届けに来たんですけど、鍵が開いていて、それでどうしたんだろうって思って」

しどろもどろに説明する結々は、必死に言葉を探しているようだ。

葵はそんな結々から視線を外すと、自分の手元を見つめながら言った。

「今何時?」

「あ、えっと、もう九時になります。ごめんなさい、食器とかお鍋とかどこにあるのか分からなくて手間取っていたらこんな時間に……あっ、勝手にお家の中探し回っちゃって、すみませ……」

「もういいって、謝らないで」

遮る葵の言葉に、結々はびくりと身をすくめる。

「むしろこっちが迷惑かけたんだから。ごめん」

けれどその後に続いた葵の言葉に、結々はぶんぶんと首を横に振る。

「迷惑なんかじゃないです!全然!」

その言葉に葵はまた食べるのを再開して、部屋に静けさが戻った。

食器のぶつかる小さな音だけが聞こえるのみで、二人とも口を開かない。

ひざを抱えてじっとしていた結々であったが、いたたまれなくなったのか突然立ち上がってシンクの方へ向かうと、手にタッパーを持って葵に見せた。

結々がおかずを詰めて持ってきていた、空のタッパーである。

「先輩、あの、これ食べてくれたんですね。ありがとうございます。持って帰っておきますね」

「ああ……」

何も作る気が起きなくて、ここ数日、結々の持ってきてくれた差し入れを食べていたことを思い出す。

シンクにそのまま放り込んであったのを、結々が見つけて洗ってくれたのであろう。

と、足元におかれたビニール袋からリンゴを取り出した結々はにっこりと笑ってみせた。