瞬くたびに

「晴那は、交通事故で死んじゃったんだ。……死んだんだよ、高校二年生の、夏休み前に」

結々は息をのんだ。

その言葉が重い塊となって、体の底に沈んでゆく。

葵はかつて大切な恋人をなくしていたのだ。

「晴那が死んだ後の葵は、そりゃあもう見てられなかった。あいつおとなしいけど、根は陽気というか、なんだかんだで明るい奴だったんだよ。よく笑うしさ。なのに、晴那が死んでからは人が変わったように暗くなって……暗くなったというよりは、晴那がいないっていうのが信じられなかったんだろうな。泣きもしないで、ずっと生気のない目をしてた。取り乱されるよりそっちの方がよっぽど怖かったね。俺はあの時、葵が発作的に自殺するんじゃないかって、ひやひやしながら見張ってたよ」

結々は何と言っていいのかわからずに口をつぐんでいた。

葵の持つ絶望や哀しみは、ここから来るものだったのだ。

「葵は多分、一番幸せだった時に戻りたいって、ずっとそう思ってたんじゃないかな。だから晴那がまだ生きていた、高校一年生の時に戻ったんだろ。もちろん、記憶だけだけれど」

そう、葵の中の時が四年前でも、時間は確実に進んでいるのだ。

高校一年生………十六歳の彼の中で当たり前のように生きている晴那はもうこの世には存在しない。

「晴那のことはまだあいつに言ってない。記憶が四年分とんでいることだけ話した。まあ理解したかはまた別の問題だけど。でもこのまま隠していても、いつかはばれる嘘だしな」

事実を知った葵がどうなってしまうのかが怖い、と要は言う。

現実の時と葵が生み出した幻の時の溝は、残酷に深い傷となって彼をボロボロにしてしまうのだろう。

そのことに、要はどうしていいのか分からないでいる。

「とにかく、俺はこれからもあいつの見舞いに行くよ。葵が大学の人間で知ってるやつは俺だけになっちゃったんだし……退院したら、大学にも慣れさせなくちゃいけない。とりあえずしばらくは、ゼロからのスタートだな」

テーブルのサンドイッチを頬張って、宣言するように要は言う。

そんな様子を見て、結々はやっとからからに乾いた口を開いた。

「あの、私もお見舞いに行ってもいいですか。それとも、今は行かない方が……」

「いや、ぜひ行ってやってほしい。今が大学生であることは話してあるし、結々ちゃんと話せば何か思い出すきっかけになるかもしれないから」