私、今日からお金持ち目指します?

そして、私の隣に佇むと、大きな手を私の頭頂部に置き、ポンポンと軽く叩く。

まるで慰めているようだ。この行為の真意は、と呆気に取られていると彼がキッパリ言う。

「私の気持ちは絶対に貴女に向かない! なぜなら、僕の心に居るのは、過去も未来も彼女ただ一人だけだからです」

そのまま彼の手が私の頭に乗る。そこから伝わる温もりに私は身じろぎもできず固まる。

過去? 過去に会ったのは、あのパーティー。あれ一度切りだ。どういう意味?

それより、この男、役者の心得でもあるのか?

真に迫る演技に、ハーッと会場のあちらこちらから、虹色の溜息が漏れ聞こえる。さもあらん! 事情を知っている私でさえ、うっかり騙されそうになった。

「あのぉ、上条さんの想いの丈は分かりました。でも……」と山下さんが言い難そうに言う。

「さっき、彼女たちに『過剰な愛を一方的に与え続ける行為は』云々とおっしゃいました。ならば、上条さんの下条さんに対する接し方も、それに当てはまるのではないでしょうか?」

おぉ、自信の付いた男は思考も男前になるのか! よく言った、ミスター山下!

心の中で盛大な拍手を贈る。

「君もなかなか言うようになったね。頼もしいよ!」

上条勝利がニヤリと笑う。そして、頭頂部に置いた手を、今度は私の左肩に置き言う。