勝手にしたら、と呆れたが、結局、私は彼の脅迫に屈した……日下部さんたちの幸せのために。

あの時、彼は言った。「おめでとう! 君は富豪への道に一歩足を踏み入れた」と。

「君は、日下部さんと山下君の幸せを願い、僕の提案を受け入れた。だが、それは強いては、僕のためでもあるし、会場中、否、僕に執着している多くの人たちのためでもある。君は皆んなを幸せに導いている、と同時に君自身をも幸せに導いているんだ」

全く意味は分からなかったが……上条勝利の計画に乗ることが、多くの人の幸せに繋がるのだ、とちょっと嬉しかった。

……だが、結婚だとぉ! ご両親をも騙すって、どういう事!
怒り心頭のまま、駅まで歩みを進める。

我が家からホテル『KOGO』まで電車で二駅。前回と同じなら、彼も一時間前に会場に着いているはずだ。そう思い、今日は待ち伏せする意味で、一時間半前に家を出た。

出たのだが……何でこうなるの!

「あのぉ、えっとぉ、大丈夫ですか?」

電車が動き出した途端、隣に立っていたご婦人が、私にヨロリともたれ掛かってきたのだ。その顔は真っ青だった。

満員だし、電車に酔ったのだろうか、と思い、放っておくこともできず、とにかく次の駅で一緒に降りた。