「下条冬夏さん。貴女、彼氏は……居なさそうですね」
「なっ！」

何を言っているのだ！　と反抗したかったが、事実なので言葉が出ない。
うーっ、悔しい！

「ああ、そうだ。皆さんに、良いことをお教えしましょう。特に日下部さん、ご両親にお伝え下さい。上条勝利には、結婚を考えている意中の彼女がいると」

「エェェ！」とその場の全員が合唱すると会場中の視線がこちらに集まる。

「おい、勝利、そんな話、聞いたことないぞ！」
「木佐社長、プライベートの喋り方になっていますよ」

どうやら木佐社長と上条勝利は友人のようだ。

「あっ、つい。で、上条先生、お相手は誰です？」
「そうですわ！」

怜華嬢と美麗嬢が目くじらを立て訊ねる。

「意中の彼女とは……彼女です」と上条勝利が私の肩を抱く。

「エェェェ！」「イヤァァァ！」「嘘ォォォ！」と今度は会場を揺るがすほどの奇声が、あちらこちらから上がる。

「お前、何言っているのだ。正気か！」

ストッパーが外れたように、とうとう木佐社長は、上条勝利を“お前”呼ばわりし始めた。

「正気だよ」
「彼女とは今日会ったばかりだろ」
「まぁねっ」
「だったら……」