「でも、利用価値が無くなるとバッサリ切り捨てるでしょうね、彼は」

嫌悪で胸がムカムカする。

「でも、私に利用価値など無いと思います」

そうだ、いくら老舗の洋菓子店といっても傾き掛けた店だ。利用するものなど何も無い。

「俺だってそうだ。俺、フリーのプログラマーなんだ。だから……そんな胡散臭い奴と娘の結婚は許さないって、こいつの親から結婚を反対されているんだ」

そりゃあ、親は上条勝利との結婚を望んでいるのだし……フリーのプログラマーって、でも、胡散臭さは、どっこいどっこいだ……と思ったところで会場となるレストラン『ル・ポワヴル』に着く。

壁一面のガラス窓から差し込む明るい日差し、円卓に敷かれた真っ白なテーブルクロス、所々に飾られた花々やセンスのいい置物、とても気持ちの良い空間に思えた。

これも第一印象と言えるだろう。流石、有名どころの店だ。

「下条冬夏さん!」

こちらに向かって大きく手を振っているのは……あの男子だ。
恥ずかしいから、止めてくれ!

「下条冬夏さん! こっちこっち!」

だが、願いも虚しく、また大声で呼ばれる。
躊躇っていると、「行きましょうか」と山下さんが誘う。