車が赤信号で停まる。おもむろに彼が私の方を向く。

「俺が最も幸せになるには、君の存在が必要だ」

真剣な眼差しで「君が欲しい」と再び言う。

魔法にかかったように、身じろぎもできず固まっていると、彼の上半身が助手席に傾き、ソッと唇に唇を合わせる。

ものの一秒か二秒ほどだったが、以前されたキスとは比べものにならないほど温かく、優しく感じ、不覚にも怒るタイミングを失う。それでも何か言わなければ、と口を開く。

「――ほっ本当に私が……好きなのですか?」

上ずり、乾いた声が質問する。

「何度も言っているだろう。そろそろ信じてくれ」

懇願? そんな言い方だ。

「――だっだって、出会いが最悪だったもの。そう簡単には信じられない……」
「だったら、これから知ってくれればいい」

ニヤリと笑う上条勝利は、いつもの彼に戻っていた。

「そして、君も……君は一回目のセミナーで言った。『夢がない』と。だから、俺との付き合いの中で見つけて欲しい。店を立て直すという目標ではなく、自分自身の夢を」

今さら夢なんて……と思うが……。

「きっと見えてくるはずだ。君が進むべき道が……そして、僕との未来が……」