「気がきくなぁ、美奈子ちゃん」
「あのさ、」
「――お前の母親も、ああいう人だった」
言葉も何も見つけられず、ただ黙り込んだ。
水の音だけが聞こえていた。
「母さんは……、俺の母さんは、どんな人だった……?」
「お前の母親は、優しい女だった。あいつが、亮子がいれば、幸せだった。なのに俺は―――」
亮子が出ていったのは、亮介がまだ二才になったばかりの頃だった。
亮子とは写真学校で知り合った。
当時から軽い男だった俺に、亮子は見向きもせず眼中にも入れず、写真だけと向き合っていた。
そんな彼女に、惹かれていった。

