「へぇ、じゃあうちの馬鹿息子は美奈子ちゃんを振って用事だとか言って出掛けたわけか」
出された紅茶は香りもよくて美味しい。
亮介パパの言い様に苦笑しながらケーキにナイフを入れた。
「でも、いつも一緒ってわけじゃないんで珍しくもないですけど」
少し、嘘をついた。
最近はもう、毎日のように一緒に帰ってた。
隣に亮介のいない日の方が少なかった。
それぐらい、大きくなっていた亮介の存在。
「ですが、亮介くんが女性をここに連れてきたのは初めてでしたからね。特別な子なのだと、最初からそう思いましたよ」
マスターが笑顔で言う。
きっと大人には、子供のつく小さな嘘なんて、すぐわかっちゃうんだろうな。
「一つ、聞きたいことがあるんです……」
マスターに曖昧な相槌を返して、亮介パパに向き直る。
私が今から聞くことは、聞いてはいけないことかもしれないし、失礼にあたることかもしれない。
でも、どうしても知りたい。
「亮介くんの、お母さんのことなんです……」
「そのことか」
ある程度予想してたのかもしれない。
わかってる、と言いたげな笑みを見せて亮介パパは昔話をはじめた。