食べるものだけ確保してればいいと、あまり売り上げまで気にしてなかったから、お客さんの顔と名前まで一致しない。


女の戦場である夜の街で私がまともに勤められたのは、そんな競争心と無縁な考え方のおかげ。


他の女の人は、私の、男にキャピキャピせず、素っ気なくともとれる態度に、色んな意味で敵ではないと判断されたのか、とことん無視された。


「お前は誰より澄ました顔で酒を注ぐ、男嫌いか?」


「え?いえ、だったらこのお仕事出来てませんよ」


「仮面が頑丈な女は関係ないだろう」



ふと、お客さんの誰かとの会話が蘇ってきて、顔が一致してくる。


「やはり、仮面だけは頑丈だったんだな」


驚きと、困惑だけの表情の私に、クラブcanadeでのカリンのは欠片もないだろう。


「瀬川、様」

どこかの会社社長だったはずだけど、ここがその会社?


彼は私が思い出したのを確認した途端、ゆっくり近づいてきて今度は下から腕が伸びる。


「俺は欲しいものはどんな手段を使っても手に入れる」


上から降ってくる声と、後頭部を行き来する大きい掌。

「少なくとも、暴力親父よりは大事に出来る」


頭を撫でられたまま、弟の位牌が入った鞄をギュッと抱きしめた。