パシッ



「あんちゃん!」



昇降口に差し掛かった時、大我君に捕まってしまった。



右手を掴まれた同じタイミングで聞こえる声。



でも...私の顔は ぐしゃぐしゃになっている。


私は...大我君の顔を見れないよ。





「はぁ...な、に?」



冷静を保つけれど、声は震えてしまう。




「こっち、向いて?」



私をクルリと180度 回転させ、大我君の方向を見させる。



顔を上げると、怪訝な顔をした大我君。



「ねぇ...なんで?

なんで、泣いてるの?

走っちゃ...ダメでしょ?」



頬に大我君の両手が そっと触れる。



ドキッとなったのも束の間...。



この両手は、1分前まで...違う女の子に触れていた。


ドクンッと私を奮い立たせる何か。



いやだ。触らないでよ...。


バシッ...




「や、やめてっ!」



大我君が、振り払われた両手を驚きながら見た。




また、大きな涙が零れる。



泣くな。泣いたら負けだよ...。



こんな最低男に、涙なんか見せるな。




「...あんちゃん。


本当は...俺の事、好きでしょ?」




ドクッ.........



違う。好きじゃない...。



「さっきの女子にヤキモチ妬いちゃった?

体も顔も...心も、真っ赤になって怒った?」



ヤキモチ...?


妬く...?



......嫉妬?


「...なんで、素直に言ってくれないの?」





...最低。さいてい、さいてい!




「きらい。

大我君なんか、大っ嫌い!」



誰もいない昇降口に響く、私の大声。



「...あんちゃ



「もう、私に...ひっく。

か、関わらないでよ...ぅ...。」


溜めてきた涙が、溢れてしまった。


我慢出来なくて。



大好きで。


大好きで、大好きで!




こんなにも、苦しいのに...。




あなたには...届かない。