生徒会室を出て、桂木と2人、しばらく自転車置き場の辺りを彷徨った。
すっかり外は暗い。
「そう言えば、あいつ、3時半過ぎてんのに学校に居たな」
つい気になって、出てしまった。
「右川んちのお父さんがお店に居るんだって。帰った頃を見計らって戻るらしいよ」
そうなのか。
山下さんは、右川の親に借金は返したと……言っていた。純粋に、様子を見に来たという事だろう。農作業の軽トラック。あの親父か。
「そう言えば、今日の沢村は大人しいね」
「え?」
「右川と、こないだみたいな激しいケンカにならなかった」
「だって、ケンカすんなって止められたし」
実際は、そうではない。弱みの存在が、俺自身を臆病にしてしまうのだ。
右川と2人だけならまだしも、阿木や桂木も居る前でバトルなんかやったら……それはいつしか暴露となりそうで。
「右川の前で泣いてやれば良かった。えーん」と、桂木は、こんな時でも笑いを誘う。そういう所も切ない。
「俺は泣いても無理だな。きっと、あのチビは喜んで蹴り飛ばす」
「アメくれ」と手を出すと、「梅しかないよ」と言いながらも1粒くれた。
「すっかり餌付けされたな」
桂木はクスッと笑って、自分も1粒口に入れる。
梅味。それは何だか懐かしい味。自分では絶対に選ばないだろう、この味。
「ばーさんの味」
「そう言われると思って、本当は出したくなかったのに」
そう言う時に限って、アメ欲しい!って言われちゃうんだよね……桂木は、くく♪と笑った。
機嫌が持ち直したと判断して、桂木の様子を、そろそろと窺って、
「明日まで、とにかく頑張ろう。どういう結果でも、俺は平気だから」
アメが溶けて無くなる頃まで、お互い、黙り込んだまま、その場に居た。
いつかのような……話にはならなかった。それどころじゃないと察してくれたと思う。そのまま、桂木とは、そこで別れた。
明日の半日……後悔しない選挙戦を〝楽しめ〟。
大きなため息が出た。
そう言えば、後悔が1つだけ、ある。
うん。
まだ投票してない。