ラッピング。
チョコ+プレゼント。
義理チョコ。友チョコ。Myチョコ。
2月14日。その日は公の演説日となっていた。
こっちは浮かれてる場合じゃない。選挙が終わるまではノリもバレンタインも(?)諦めて、目の前の事をやるしかないのだ。
楽しそうに答え合わせをする声を頭の向こうに聞きながら、夕べ、殆ど徹夜で考えた演説の草稿をそっと開く。

〝生徒の意見を尊重。笑顔で過ごせる学校。そして最高にハッピーな物語を1人1人に〟

頭が真っ白になる。
こんな恥ずい事、書いたっけ?夜考えた色々というのは、次の日、読んでみて、そこそこという事がよくあるから。
先生が教室に入って来る。
俺は慌てて課題を広げ、その下に隠すように草稿を忍ばせた。課題を黒川に盗み見られる事を100も承知で、今一度、草稿に意識を集中させる。
誰かに相談できたらいいのに。永田さんに推敲してもらうとか。
「内職、丸見えだよ」
先生の声に、心臓が飛び跳ねた。
だがよく見ると、俺ではない。
先生は右川の頭をポンと叩いて、何やらメモを取り上げる。
「えー、何々?トッピング?生クリーム?アーモンド?あらま、美味しそ」
そこを、「あわわ!返してぇ~」と、右川が飛び上がった。
当然というか、チビがどんなに足掻いても、先生の手には届かない。頭を叩かれるついでにメモを返されて、周囲にクスクスと笑われて、右川は席に付いた。
何やってんだ……。おまえだって、それ所じゃないだろう。
授業の終わりとともに、誰に後ろ髪を引かれる事も無く、俺はすんなり5組を出た。
そこから放課後、土曜日の午後を駆けて、怒涛の営業活動に突入する。
今日は文科系の活動場所、芸術棟などを中心に、お馴染みの応援団と共に校舎を隈なく回った。
クタクタで教室に戻ってくると、何故か応援が全員揃っていて、
「ゴチ」「ごち」「ゴチ」「ごち~」
と、口々に言う。
見ると、机を教室の真ん中に寄せ、その上にポテチやらチョコやら、様々な食いもんが載っていた。確かに腹ペコ。
「おー、気が利く」俺の声に重なるように、
「みなさん!!」と、桂木が声を張り上げた。
「次期会長から、これ、オゴリだそうです!」
それに皆がどよめいて、「マジで!」「深イイ!」「35億~」
俺は身体中をポコポコと叩かれながら、お礼なんか言われてるけど……いい気になってる場合じゃない。俺のオゴリ?そんな金無いよ。
ドーンと蒼ざめた時、桂木がソッと身を寄せて、
「阿木さんに聞いたら、節約して余ったお金、こーゆー事に使ってもいいって。大した額じゃないし、ちゃんと申請したから大丈夫」
ヒソヒソと教えられた。桂木は、またそこでキリッと表情を変えて、
「来週はいよいよ演説ですね。沢村くん、がんばってください!」
その変わり身に呆気に取られながら、「うん」と頷いたと同時に、「うおっほ!」「ふぉー!」次々と威勢のいい掛け声が轟く。女子も、その声に合わせて笑いながら手を叩いた。
応援団、こんなに居たのか。
教室がもう一杯だ。男女が半々。バレ-部じゃない子も大勢居る。石原の隣に浅枝も、ちゃっかり。小学校時代からの腐れ縁も居た。最近は、それほど言葉を交わしてもいないのに。
賑やかな仲間の波に押されながら、時々顔を覗かせて、ノリも……。
楽しむと言うより、最近は、やたら泣きたくなる。
「あ、みんな毎日ありがとう……ちょっと驚いた」
「おまえなら余裕でいけるッ!」
そんな掛け声が飛んだら、誰かがアンサーして、「アタリマエでしょ!」
そこで一部がウケて吹き出すと、周りが爆発的にドッと湧いた。
余裕って……そうかもしれないけど。
「普通にやるだけじゃ、みんなに応えられない気がして」
これまで、ずっと他人事にばかり、かまけていた。
こうして自分に付いてくれる仲間の存在を見せつけられると、そろそろ、自分の事だけ考えてもいいんじゃないかと……踏み出したくなる。
「俺、必死でやるから」
喉元まで込み上げた。それを押し戻すように、言葉にする。
桂木が手を叩くと、それを合図に弾かれるように周囲が一斉に拍手に湧いた。
ガンバレよ~と、その言葉にこれほど気を良くする事なんて、今まで1度たりともあっただろうか。言われる度に、甘えんな!と苦虫を噛み潰していたような気がする。
仲間に揉みくちゃになりながら、ゆるゆるとノリに近寄り、周囲の注目の中、「終わったら何かオゴってよ」「うん。まぁ」と、まるで安っぽいドラマのような小っ恥ずかしい和解に連れ去られた。その後、誰かが歌い始め、踊り始め、先生に、「いい加減、もう帰んなさい」と注意されるまでその宴は続いて。
「あと、ちょっとだね」
校門で別れ際、そっと背中を押された。
いつの間にか、ノリまで説得するとは。
〝桂木ミノリ〟
妬ましいくらい、ヤバい女子だ。