それは……したくない。事実、俺は殺そうとなんてしてないんだし。
重森の事だって、半分は右川にも関わる事だった筈だ。
俺が代わりに請け負ってやったようなものだ。
なのに、どうして俺だけが悪い事になってしまうのか。納得がいかない。
永田が嬉しそうにまとわりついてきたかと思うと、
「沢村とノリ吉、いつから腐ってんだッ?」
「どっちがアニキだよ?こうなったら専門、1組の林野を呼ぶぞ」
「つーか、そこのチビはどうすんだよッ」
「チッパイ過ぎて神だからな。2度とオトコ出来ねーぞ」
永田は黒川と一緒になって次々と煽った。
この喧噪に誤魔化されて、いつもの明るさを取り戻して……くれないだろうな、ノリは。永田に突かれながらも、俺を睨む目ヂカラは衰えない。
〝これだけ言っても洋士は謝らない〟と、今も責めている。
ノリの背後から、右川がピョコと顔を覗かせた。
「普通に飽きた。あたし、ちょっと先輩んとこ行ってくるね」
ノリにだけ伝えると、この騒動をそのままに、右川は教室から出て行った。
それを追いかける気も無い。謝る気はサラサラ無い。
そんな俺を、今もノリは目で責めている。
俺とノリだけが微動だにせず、お互いに見合った。
17年続いた友情に亀裂が……だが、周囲は他人事、今もなお、ドンドンガラガラと勝手に大騒ぎで沸騰中だ。
黒川が、何か気付いたようにハッと顔を上げて、
「もしかして……右川のヤツ、3年1組に向かったんじゃねーか」
どうして。
「こういう場合、アテにならない応援には見切りをつけて、1番頼りになる大物にすがるっきゃないだろ」
1番頼りになる大物。こういう場合
3年1組……永田会長。
阿木に、「何か聞いてる?」と情報を促した所、「全く何も」と来た。
つまり、これから。
去年も、推薦で進路の決まった3年は、お祭り気分を味わう最後の機会とばかりに、ノリノリで選挙に介入していた。これから頼み込めば、永田さんを筆頭に盛り上がる事も期待できる。
3年を味方につける事が出来たら、鬼に金棒。確か、永田さんは推薦で大学決まったとか何とか。そこをまず確かめて……あー、どうして今まで思い浮かばなかったんだろう。
「兄貴は強敵だな。そうなると、バスケの票は全く期待できねーし」
黒川は深いため息をついた。
「おいおい、スネ夫。バスケ軍団は当然オレに決まってんだろッ」
「トボケてんのか、ジャイアン。ピンチなんだぞ。兄貴が右川に付いたとして、みんな兄貴とお前、どっち選ぶと思ってんの」
表に出る候補者が誰であっても、時の権力者、永田会長の後押しがあれば。
黒川じゃなくても一目瞭然だ。
スネ夫とジャイアンのコンビにはうっかり笑いそうになり、ここで俺がドラえもんなら、しずかちゃんは阿木なのか?と妄想は目一杯、膨らんだが……目の前〝のび太〟のノリがまだ許してくれない事を思い出して、何とか笑いをこらえる。
「3年1組に行ってくる」
とにかく永田さんに当たってみなくては。
「オレもッ!」と、永田。
「気になるから、オレも付き合うかな」と、黒川。
「じゃ、私も行かなきゃ」
何で?
全員が何かを取り違えて、一斉に阿木に注目した。
「だ、だってそう言う事なら。選挙管理委員だし」
「単に、兄貴に会いたいだけだろがッ。このクソビッチ」
「ね、私が永田クンに一言云えば、その場でどうなるか、分かってる?」
「うぉぉぉーッ!選管に脅されたぁッ!訴えろッ!ブラザーK!コンテンポラリーだッ!」
「コンプライアンスだろ。頼むから選挙が終わるまで死んでくれ」
バカバカしい喧騒を尻目に、「僕は行かない。もう授業が始まるから」と、独り残ったノリに後ろ髪を引かれる思いで、藤子不二夫、御一行(のび太、以外)で、ゾロゾロと3年1組に向かう。
どこでもドア……出せるか、そんなもん。