「しばらく騒々しくなる。だがそれ以外、3組が困る事は無い。おまえらは黙って見てればいい」
ストンと、着席した。
へぇー。
ほぉー。
ふぅーん。
聴衆はスーッと……滅多にお目にかかれない、正真正銘ドン引き、であった。
上から目線。人に物を頼む態度じゃない。
周囲は、プイと不機嫌を露わにして出ていく。
このトピックを仲間に知らせようと前ノリ気味で飛び出す輩も居た。
3組の教室は俺達以外、誰も居なくなった。
今の時点で重森の言う通り、3組が困る事は無く、騒々しいとさえ無くなったと言える。
その間、応援部員は2人共、見事に絶句。
その目を丸くしたまま、
「ウソだろ?まさかと思うけど、ここで命懸けの生徒会ドッキリ?」
「沢村ぁ、おまえ、公認をチビに奪われてヤケになってんじゃねーか?」
そう言いたくなる気持ちも分かる。
「おまえらがそれで納得なら、そういう事だ」と、重森は口先で笑って、
「これで勝てない筈はない。俺が会長になってからも双浜生徒会は安泰だ。行事でも何でも、全てがスマートに運ぶだろう」
やっぱり俺はこき使われる。この時、確信した。
俺の存在が晒された今、この2人の口を通じて知れ渡るのも時間の問題。
バスケ部、バレー部、ナカチュウ軍団、周りから非難ゴウゴウ。それを覚悟して挑まなくてはならない。
生徒会は……永田会長と松下さん。阿木と浅枝。
何を言われるだろう。1番厳しいラインナップだな。
こうなってしまったら、もう堂々と右川に会いに行けなくなる……とは、何だ。まるでロミオとジュリエットか。
重森は、「演説の草稿は、とっくに準備出来てるから」と胸を張った。
だったら見せてみろ。
それを誰も言わない事を不思議にも思わない様子で、フェイスブック、インスタグラム、ツイッターやら、ありとあらゆるSNSを活用して挑むんだと、重森は益々のやる気を見せた。
部員の2人に向けて、「ポスターとかHPとか。おまえらでどうにか整えろ」と命令する。
「選挙HPの見本っつーか、雛型とかって、どっかにある?」と、ちょうどこっちが相談を受けている所に重森は割り込んで、
「ツブってさ、今頃どうしてる?」
「全然、見ないけど」
事実である。未だ1度もまともに遭遇していない。
ふん!と聞こえるように、重森は鼻で笑った。
「沢村に、ファースト・ミッション。敵状視察だ。右川カズミが本当に立候補する気があるのかどうか、調べて来い」
右川が出る!と、持ち上げて回った俺を、今もどこか疑っている。
そして、現状のはっきりしない右川の態度に業を煮やして、さっそく重森が命令を飛ばしたという事だろう。
「あと、出るとしたら、どこに応援頼むのかも調べとけよ」
追い打ちか。図に乗りやがって。
だが、これで堂々と右川の様子を見に行く口実ができたな。
重森と共に2名は、クラスに戻ると告げて出て行く。
あと10分で休憩が終わってしまうぢゃないか!
重森に邪魔されて途中になっていた弁当を教室で喰らっていると、そこに阿木がやってきた。両腕に紙袋という出で立ち。見れば、その中はどっさり書類で埋まっている。
「さっそく選挙管理委員会ですけど」
さっそく来たか。
阿木は、「まだ食べてるの?」と怪訝な目で俺を上から下まで眺め、そしてクラス中をぐるりと見回すと、「3組はいつもにぎやかね。いつも誰かがいて明るい雰囲気だし」
いきなり無意味な世間話から来た。
見れば分かるが、今は誰も居ない教室だ。実に怪しい。
そう、これは本題前の前振りなのだ。嫌な予感がする。嫌な予感しかしない。
阿木は、選挙管理委員という立場上、これから密に陣営をまわるという役割があった。どこの陣営が多いとか少ないとか、ケンカしたとか辞退したとか、情報は1番に入る。
さっそく聞きつけて、重森の陣営にやってきた……という事だろうな。
俺はひたすらメシに集中した。
「で、重森くんが吹奏楽じゃなく、3組で威張ってるって聞いたけど」
「……」
「右川さんは?どこに作るの?」
「……」
「応援、どれぐらい集まるかしらねー」
弁当はもう味を感じなくなった。
遠回しは止めて、阿木にはもうスパッと殺ってもらいたい所である。
こっちが言葉を選んで迷っていると、阿木は両手の紙袋をドカッと机の上に放り投げた。
「で、どういうつもり?」
今までのワザとらしい笑みを一変させて、阿木は最強の仁王立ちでいる。
「実は」
ここで初めて、事の次第、それまでの重森との経緯を話して聞かせた。
「先輩に頼まれて委員になったけど。沢村くんがいるから安心してたのに」
阿木は、最後はもう殆ど泣きそうな……というか、何て情けない男子なのかと半分責める態度で腕組みしたまま、次の言葉を探すように窓の外を眺めた。
金を返す……その見返りとして、俺は選挙の後援を命令された。
時期が来るまで誰にも言うなと固く口止めされて……同時に、阿木にも手が回っていたのかもしれない。選管になると、立候補はおろか、表向きは特定の候補者を応援できない。3役は会長の指名が降りない限り、就けない。
よって、今の阿木は見ている事しかできないのである。
「そう言う事なら、何が何でも右川さんにやってもらわなくちゃでしょ」
阿木は、受け入れる覚悟を決めた様子で、「選管だから、一応、立候補の申込用紙」と、重森に向けた書類を渡した。これは本意じゃないと、暗に示したような物の言い方である。
「一応、こっちが右川さんの分」
同じ分量の筈だが、ずっしり、重く感じた。
何かの期待を込めて、重く、のしかかる。
これを一体誰に託せばいいのか。その、肝心の右川は今頃どうなってるのか。
誰か他に応援を頼んでいるのか。とかいう前に、本人に覚悟はあるのか。
あの様子だと。
「選管で、なんか聞いてる?」
全然、と阿木は溜め息をつく。
「沢村くんがしっかり動いてると思ったから。特に何の確認もしないわよ」
阿木の精神攻撃はチクチクと来た。しばらくは、甘んじて引き受けよう。
わずかに味の蘇った弁当をカッ込み、一応、阿木から受け取った用紙の束を抱えて、残り5分。
さっそく5組に向かった。阿木も当然のように後を付いてくる。
ストンと、着席した。
へぇー。
ほぉー。
ふぅーん。
聴衆はスーッと……滅多にお目にかかれない、正真正銘ドン引き、であった。
上から目線。人に物を頼む態度じゃない。
周囲は、プイと不機嫌を露わにして出ていく。
このトピックを仲間に知らせようと前ノリ気味で飛び出す輩も居た。
3組の教室は俺達以外、誰も居なくなった。
今の時点で重森の言う通り、3組が困る事は無く、騒々しいとさえ無くなったと言える。
その間、応援部員は2人共、見事に絶句。
その目を丸くしたまま、
「ウソだろ?まさかと思うけど、ここで命懸けの生徒会ドッキリ?」
「沢村ぁ、おまえ、公認をチビに奪われてヤケになってんじゃねーか?」
そう言いたくなる気持ちも分かる。
「おまえらがそれで納得なら、そういう事だ」と、重森は口先で笑って、
「これで勝てない筈はない。俺が会長になってからも双浜生徒会は安泰だ。行事でも何でも、全てがスマートに運ぶだろう」
やっぱり俺はこき使われる。この時、確信した。
俺の存在が晒された今、この2人の口を通じて知れ渡るのも時間の問題。
バスケ部、バレー部、ナカチュウ軍団、周りから非難ゴウゴウ。それを覚悟して挑まなくてはならない。
生徒会は……永田会長と松下さん。阿木と浅枝。
何を言われるだろう。1番厳しいラインナップだな。
こうなってしまったら、もう堂々と右川に会いに行けなくなる……とは、何だ。まるでロミオとジュリエットか。
重森は、「演説の草稿は、とっくに準備出来てるから」と胸を張った。
だったら見せてみろ。
それを誰も言わない事を不思議にも思わない様子で、フェイスブック、インスタグラム、ツイッターやら、ありとあらゆるSNSを活用して挑むんだと、重森は益々のやる気を見せた。
部員の2人に向けて、「ポスターとかHPとか。おまえらでどうにか整えろ」と命令する。
「選挙HPの見本っつーか、雛型とかって、どっかにある?」と、ちょうどこっちが相談を受けている所に重森は割り込んで、
「ツブってさ、今頃どうしてる?」
「全然、見ないけど」
事実である。未だ1度もまともに遭遇していない。
ふん!と聞こえるように、重森は鼻で笑った。
「沢村に、ファースト・ミッション。敵状視察だ。右川カズミが本当に立候補する気があるのかどうか、調べて来い」
右川が出る!と、持ち上げて回った俺を、今もどこか疑っている。
そして、現状のはっきりしない右川の態度に業を煮やして、さっそく重森が命令を飛ばしたという事だろう。
「あと、出るとしたら、どこに応援頼むのかも調べとけよ」
追い打ちか。図に乗りやがって。
だが、これで堂々と右川の様子を見に行く口実ができたな。
重森と共に2名は、クラスに戻ると告げて出て行く。
あと10分で休憩が終わってしまうぢゃないか!
重森に邪魔されて途中になっていた弁当を教室で喰らっていると、そこに阿木がやってきた。両腕に紙袋という出で立ち。見れば、その中はどっさり書類で埋まっている。
「さっそく選挙管理委員会ですけど」
さっそく来たか。
阿木は、「まだ食べてるの?」と怪訝な目で俺を上から下まで眺め、そしてクラス中をぐるりと見回すと、「3組はいつもにぎやかね。いつも誰かがいて明るい雰囲気だし」
いきなり無意味な世間話から来た。
見れば分かるが、今は誰も居ない教室だ。実に怪しい。
そう、これは本題前の前振りなのだ。嫌な予感がする。嫌な予感しかしない。
阿木は、選挙管理委員という立場上、これから密に陣営をまわるという役割があった。どこの陣営が多いとか少ないとか、ケンカしたとか辞退したとか、情報は1番に入る。
さっそく聞きつけて、重森の陣営にやってきた……という事だろうな。
俺はひたすらメシに集中した。
「で、重森くんが吹奏楽じゃなく、3組で威張ってるって聞いたけど」
「……」
「右川さんは?どこに作るの?」
「……」
「応援、どれぐらい集まるかしらねー」
弁当はもう味を感じなくなった。
遠回しは止めて、阿木にはもうスパッと殺ってもらいたい所である。
こっちが言葉を選んで迷っていると、阿木は両手の紙袋をドカッと机の上に放り投げた。
「で、どういうつもり?」
今までのワザとらしい笑みを一変させて、阿木は最強の仁王立ちでいる。
「実は」
ここで初めて、事の次第、それまでの重森との経緯を話して聞かせた。
「先輩に頼まれて委員になったけど。沢村くんがいるから安心してたのに」
阿木は、最後はもう殆ど泣きそうな……というか、何て情けない男子なのかと半分責める態度で腕組みしたまま、次の言葉を探すように窓の外を眺めた。
金を返す……その見返りとして、俺は選挙の後援を命令された。
時期が来るまで誰にも言うなと固く口止めされて……同時に、阿木にも手が回っていたのかもしれない。選管になると、立候補はおろか、表向きは特定の候補者を応援できない。3役は会長の指名が降りない限り、就けない。
よって、今の阿木は見ている事しかできないのである。
「そう言う事なら、何が何でも右川さんにやってもらわなくちゃでしょ」
阿木は、受け入れる覚悟を決めた様子で、「選管だから、一応、立候補の申込用紙」と、重森に向けた書類を渡した。これは本意じゃないと、暗に示したような物の言い方である。
「一応、こっちが右川さんの分」
同じ分量の筈だが、ずっしり、重く感じた。
何かの期待を込めて、重く、のしかかる。
これを一体誰に託せばいいのか。その、肝心の右川は今頃どうなってるのか。
誰か他に応援を頼んでいるのか。とかいう前に、本人に覚悟はあるのか。
あの様子だと。
「選管で、なんか聞いてる?」
全然、と阿木は溜め息をつく。
「沢村くんがしっかり動いてると思ったから。特に何の確認もしないわよ」
阿木の精神攻撃はチクチクと来た。しばらくは、甘んじて引き受けよう。
わずかに味の蘇った弁当をカッ込み、一応、阿木から受け取った用紙の束を抱えて、残り5分。
さっそく5組に向かった。阿木も当然のように後を付いてくる。

