今度は無理矢理にシノミヤの身体は揺すられている。あ、これはもうシノミヤは助からないかもしれない。
ナツキは心の中でアーメンと呟いた時だった。
「勝手に殺すな!っ……痛えなっ!」
シノミヤは何とか甦る。もしかしてナツキの心の声でも聞こえたのでは無いかと言う絶妙なタイミングで。
「良かったあっ。ボク、シノミん殺しちゃったのかと思ったよ。痛いの?どこ?大変だよ!将来のボクの旦那さんに大きな傷でも残ったら……!」
……そもそも、さっきからつっこみ所が在りすぎて、色々と対処しきれていないが、ナツキはまずは呼吸を落ち着かせて咳払いを一つ。
「え、えっと。君は誰?二人はどういう関係?」
「こいつは……」
「ボクは、シノミんの将来のパートナーだよ。わあっ、言っちゃった」
シノミヤを遮り、恥ずかしそうに両手で顔を隠す乙女モードの仕草をする少年。
その解答にナツキの視線は、だんだんとよそよそしい物へと変化していく。
「へー。シノミヤってやっぱりそうなんだね。いくら可愛いって言っても、その方向は、俺にはちょっと分からないかな」
「やっぱりって何だ!?俺だってそんな趣味ねえよ!お前もいつまでくっついてんだ、離れろ!」
「いやーん!」
強引にシノミヤに引き剥がされた少年は不満そうに頬を膨らませている。
「そもそも君、酷いよ!ちゃんと喋れるなら普通に声かけてくれれば良いのに!」
「ん?えへっ。だって、ボクの悪戯にうろたえてる【なっつん】とっても可愛かったんだもん。からかいたくなっちゃうよね!」
「な、なっつん?」
「知ってるよ、君の事。ナツキ=ノースブルグ君だよね?だから、なっつん。あ、そうそうこれ!これあげるよ」
白衣の内ポケットから紙切れを差し出してきた。いや、名刺だ。
ナツキはそれを手にして記された文字を音読してみる。
「えっと、西部支所 社員 リュカ……ん、せ、西部支所!?」
ナツキの声に得意気な表情のリュカは胸を張りドヤ顔を浮かべている。
シノミヤに視線をやると返事の代わりに盛大な溜息が返ってきた。どうやら新たなトラブルメイカーが上陸したらしい。
東部の次は西部支所。一難去ってまた一難。ナツキは胸の内でシノミヤと同じく新たにやってきたトラブルの種に嘆息したのだった。



