その姿はいつものノアではなく、初めてあった彼女の姿と重なっている。




あの日も、ノアは笑ってもいなければ、怒ってもいない、冷静に対象を見つめて刀を振るう機械のようだった。そして、今もそう見える。




あんな子供みたいな彼女の、今の姿にナツキは胸が痛む。




自分もまたノアの様に前線で戦えていたら、彼女の信頼も少しは得られるのだろうか?



守ることが出来たのだろうか?



「シノミヤ……俺……」




ナツキが何かを言いかけた時だった。通信機から普段からは想像できない緊迫した雰囲気の羽柴の声が聞こえてきた。




「皆さん、気を付けてください!地下断層から生体反応を感知しました!」




「地下断層?ちょっと待て!それって最後の奴は……!」




シノミヤも羽柴の声を聞き取ってすぐに状況を把握したのだろうか、次の瞬間先ほどよりも大きな地響きとともに立っていられないような揺れに地面に亀裂が入り、そこから地面の隆起が始まる。





「な!?」
「うわっ!」




一体いつからどこに潜っていたというのか、最後の一体は姿をゆっくりと現してくる。




顔と体は女性のものだが、その背中や腕から広がっているのは毒々しいが鮮やかな黒や紫の模様の羽が大きく羽ばたき風を作る。





既にその姿は美しくも妖しげな蝶だった。




「出てきやがった……。春日井さん、あんた行けるか?上司の力っての見せてくれんだろ?蛸野郎は、ノアと俺でやる。あんたが無理なら時間だけでも稼いで……」





「相変わらず可愛げのない奴ね!素直に『先輩、お願いします』の一言でも言ったらどうなの?まあ、あんた達が片付ける前に、あたしが手柄横取りしてやるわよ!」





ナツキのチョーカー型の通信機から可愛らしくも勇ましい声が響いた。アリスだ。一足先にターゲットを倒したアリスが最後の標的に向かうのだろう。