「ナツキ=ノースブルグ君。君には本当に申し訳ない事をしたと思っているのですが、私達も時間がありません。どうか、私達に協力して欲しいんです」




ナツキの体に力が入った。
申し訳ない、と羽柴が口にしたのは、学校の事だ。





つまり、あれは悪夢でも何でもない。身に振りかかった現実。




「お前が、全部仕組んだのか!」




ベッドから起き羽柴の胸ぐらを掴もうとしたナツキだったが、傍に立っている羽柴の胸ぐらまで届かない。





「なっ……!」




手首にある冷たい感触に気づいて目を剥いた。手首には拘束具が、そして鎖が繋がっており、壁へとその鎖は打ち込まれている。




軟禁。




彼らはナツキの行動範囲すら、支配するつもりらしい。




「すみません。強引な方法かと思ったのですが、あのままでは話すら、まともに聞いて貰えそうになかったので、シノミヤ君に協力して貰ったのです」




「シノミヤ!?……ぐっ」




ナツキの肩に痛みが戻ってくる。完全に思い出したからだろうか。



あの時確かにシノミヤに撃たれた。




「麻酔が切れましたか?シノミヤ君には強力な物を射つよう、と頼んでおいたのですが」




「麻酔?嘘だ、シノミヤの撃ったのは明らかに実弾だった!」



彼が外した一発目は、明らかにその威力はあったはず。



「あなたを確実に眠らせる方法をとったのでしょう。いきなり銃を撃たれたら、例えそれが当たらずとも、銃に耐性の無い人間は瞬間的にでも動きを止めます。本当に危険な時とは、咄嗟(とっさ)に動けないものですし、無意識にでも身に起きた状況を少しでも理解しようとする思考が働きますから」





微かに微笑んでいる表情はどこか得意気で、羽柴のそんな様子にも苛立ちを感じる。




図星で何も言い返せないことも悔しい。現にナツキは足が止まってしまったし、実弾かどうかも咄嗟に確認している。




「安心してくださいよ。シノミヤ君に私から渡したのは実弾ではなく、麻酔です。あなたは少し意識を失っていただけです。まあ、それでも衝撃はありますし、傷はまだ痛むでしょうが、ノア君が手当てをしてるはずです」





死にはしませんよ、と他人事に語る羽柴は室内を見渡したものの、何かを諦めたように嘆息(たんそく)するとポケットから小さな鍵を取り出す。




どうやら拘束具を外す為らしく、ナツキは条件付きの解放となった。




「私の座る椅子が無いので、移動します。大人しくしてください」



「嫌だと言ったらどうなるんですか?」


「困ります、私が。立ち話は足腰が痛いんです、我が儘言わないでください」



「……」



随分と自己中な問題で解放された。目の前の男に怒る気にもなれず、疲労だけが蓄積される。まともに相手をしては駄目な人種だろう。自分とは相性が悪いのだと言い聞かせて彼についていくことにした。