今だ!



反撃なんて考えない。上体も直ぐに起こしている場合ではない。這い逃げる情けない形になったが、背に腹は代えられない。とにかく今は命が惜しい。




とにかく退散だ。一階に降りれば、誰かいるかもしれないし外へ出ることも出来る。 




「階段!」



角を曲がれば降りられる!
ナツキが曲がろうとした時だった。




乾いた発砲音と共に廊下の足元から焦げ付く煙が上ってくる。
居たのは剣士の女だけじゃなかったのだろうか?



ゆっくりと近づきながら聞こえてくる声には覚えがあった。




「俺は忠告しただろ?保健室から出て来るんじゃねえって。こんな災難に巻き込まれるなんて、お前ヘタレの上に運も無えのな」




「シノミヤ!」



金髪のウルフカットの男が近づきながらも、小馬鹿にした様に肩を竦めて笑う。
この男は何も感じないのだろうか?沢山の人間を手にかけて。




目の前の剣士の女も、制止の言葉も聞かず情も聞き入れず手にかけて。
ふつふつと沸き上がる感情にナツキは拳を握りしめた。





「何でこんな事してるんだよ!?四宮は、皆は何もしてないじゃないか!」




「そうだな。あいつらは、ただ運が悪かっただけだ」




悪びれもせずに答え返すシノミヤ。そして、先程の放ったであろう銃口を今度は狙いを定めている。





「奴等の中でもお前は、本日のベストオブアンラッキー野郎だ」





口にしたと同時にシノミヤはトリガーを引いた。





痛みと熱を感じたかと思ったが、それはナツキにとって一瞬だった。









何が起こったのかもほとんど分からないままに、ナツキの視界は真っ黒に塗りつぶされていったのだった。