このお店を出るということは、これから彼の部屋へ行くということ......。
食事を済ませて席を立つ。なんてことない、日常の光景。だけど、今はその行動がとても恥ずかしい。椅子から立ち上がり席を離れるまでの、ほんの数秒の間の沈黙にドキドキすることなんて、そうそうない。
私は今、そういう状態だ。
一方、彼はどうだろう。
私が見る限り広務さんは、なんら普段と変わらず。平静を保っているように見える。
そんな普段と変わらない彼の姿に私は胸が、いつも以上に強く熱く、そして甘く切なく絞られた。
普段の彼ーー。
それは私にとって、最も愛おしい存在。
私は今、自分の目の前にいる彼を真っ直ぐに見つめた。
広務さんは、テーブルに伏せられて置かれている伝票をさりげなく持ち、スッと立ち上がると私に視線を合わせた。
「俺、会計済ませてくるから。優花、先に行ってて」
彼はデートの時、今まで一度も私にお金を払わせたことがない。
案の定、今日も私は包容力のある彼に甘えて、素直にご馳走になった。
「ごちそうさま......」
「うん。......じゃあ、行こうか」
会計を済ませた彼は、エントランスで待っていた私のもとへ足早にやって来ると、両手でバッグを持っている私の片方の手に触れた。
私は彼の手の感覚を感じ取ると同時に、両手持ちしていたバッグを片手で持ち、彼と手を繋いだ。
外に出るまで待ちきれずに。エントランスで手を繋いだ私達が、これから迎える時間に、いかに気持ちを高まらせているかと思うと、もう大人なのに冷静に振る舞えないことが恥ずかしい。でも、それ以上に、ときめいているーー。
これからどこに向かうのか暗黙の了解の私達は、くすぐったい気持ちで夜の繁華街を無言のまま、手を強く繋いで歩いた。
タクシーを拾おうと、車道に目をやりながら私の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれていた彼は、不意に立ち止まって、何か思い出したように一瞬目を見開き、そのあと私の顔をまじまじと覗き込んだ。そんな彼の仕草に私は、これから彼がよほど重要なことを告げるのだと思い、息を飲んだ。
食事を済ませて席を立つ。なんてことない、日常の光景。だけど、今はその行動がとても恥ずかしい。椅子から立ち上がり席を離れるまでの、ほんの数秒の間の沈黙にドキドキすることなんて、そうそうない。
私は今、そういう状態だ。
一方、彼はどうだろう。
私が見る限り広務さんは、なんら普段と変わらず。平静を保っているように見える。
そんな普段と変わらない彼の姿に私は胸が、いつも以上に強く熱く、そして甘く切なく絞られた。
普段の彼ーー。
それは私にとって、最も愛おしい存在。
私は今、自分の目の前にいる彼を真っ直ぐに見つめた。
広務さんは、テーブルに伏せられて置かれている伝票をさりげなく持ち、スッと立ち上がると私に視線を合わせた。
「俺、会計済ませてくるから。優花、先に行ってて」
彼はデートの時、今まで一度も私にお金を払わせたことがない。
案の定、今日も私は包容力のある彼に甘えて、素直にご馳走になった。
「ごちそうさま......」
「うん。......じゃあ、行こうか」
会計を済ませた彼は、エントランスで待っていた私のもとへ足早にやって来ると、両手でバッグを持っている私の片方の手に触れた。
私は彼の手の感覚を感じ取ると同時に、両手持ちしていたバッグを片手で持ち、彼と手を繋いだ。
外に出るまで待ちきれずに。エントランスで手を繋いだ私達が、これから迎える時間に、いかに気持ちを高まらせているかと思うと、もう大人なのに冷静に振る舞えないことが恥ずかしい。でも、それ以上に、ときめいているーー。
これからどこに向かうのか暗黙の了解の私達は、くすぐったい気持ちで夜の繁華街を無言のまま、手を強く繋いで歩いた。
タクシーを拾おうと、車道に目をやりながら私の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれていた彼は、不意に立ち止まって、何か思い出したように一瞬目を見開き、そのあと私の顔をまじまじと覗き込んだ。そんな彼の仕草に私は、これから彼がよほど重要なことを告げるのだと思い、息を飲んだ。


