私は今まで彼を私よりも、ずっと恋愛経験が豊富な大人の男性だと思ってきた。

だけど。今私の目に映る彼は、まるで初恋を告白するかのように。少し照れた感じと、受け入れられるかという僅かな不安を孕んだ笑顔で私を誘っている。

夜は、まだ始まったばかりだというのに。一滴のお酒も入っていないというのに。こうして向かい合って、揺れる瞳に私を映して”君が欲しい”と、求める彼の様子に、私は混じりけのない愛情を感じた。

その真摯な想いは、あの夏祭りの日に私を包み込んだ、彼の腕の中のぬくもりに通じる。

今夜は。その、ぬくもりを身体中で感じて、まだ知らない彼を知って、まだ彼の知らない私を見せるのだと思うと、一体この気持ちを彼へどう伝えればいいのかと戸惑ってしまう。

こんなにも、愛しくて熱い気持ちを、ありきたりな言葉に託すには有り余り、私は、ただ。はにかんだ笑顔を彼へ向けることしかできなかった。

「......乾杯しようか」

私の気持ちは、きちんと彼へと伝わった。

彼の胸の内を察した私は、恥ずかして嬉しくて、まともに目を合わせられなかった。

言葉で確かめ合うのは味気ない。だから、代わりに祝杯をあげようという風に、広務さんはワイングラスを持ち愛しげな眼差しを私へ向けた。

二人きりの空間にグラスの、ぶつかる音が響いたあとで、順次テーブルへ運ばれてくる料理を食べながら、私達は会えなかった一週間の出来事を話した。

「同期の友達が、同じ部署の先輩と付き合ってるんだけどね。時々、社内恋愛って、羨ましいなぁって思っちゃう。いつも好きな人と一緒に居られるなんて、最高に幸せ」

「ごめん。なかなか会えなくて......」

「あっ!違うの、ごめんなさいっ!あんまり会えないから、嫌だとかじゃなくてっ......!」

「俺は嫌だよ。優花に、あまり会えなくて。......寂しい思いをさせて本当に、ごめん。その分、こうして会える時は、たくさん愛情を伝えたい。だから今、テーブルを隔てて優花に触れられないことが、すごくもどかしい。......ここ、そろそろ出ようか?」

「うん......」