それからも当たり前のように。彼と私の手が繋がれることはなく、空回った私の指先の間を冷たいクーラーの風が何度もスーッとすり抜けていった。

悶々とした私の恋心を置き去りにして、彼の運転する車は今日の目的地目指して軽快に疾走し続け、真夏の日差しを受けて煌めく海原を横目に車内の私達は他愛ない会話を重ね続けた。

「次のデートは優花さんの地元に行きましょう?」

何気なく放った彼の一言に私の心は大きく揺れた。

......本当に?

私達また会えるの?

それは、今日みたいな関係で?

それとも、恋人同士として.......?

それとも、ただの社交辞令.......。

言葉には容易に表せない、”ときめき”と”切なさ”をかかえながら。私の瞳に映る彼へ、精一杯の想いを込めて応えた。

「はい、是非っ!」

是が非でも。彼に会いたい。会い続けたい。

そんな切実な想いとは裏腹な明るい笑顔を彼に向けた時、私の胸はキリキリと痛んだ。

彼は私の胸の痛みなどには、まるで気がついていないような雰囲気で、変わらない優しい笑顔と口調で話続けた。

「優花さんは、こっちの方に来たことありますか?」

「はい。学生の頃、電車を乗り継いで友達と海を見に来たことがあります。私の地元は海が無いので、すごく感動したのを覚えてます......」

「そうですか......。地元の人間にとっても、やっぱり海は、いつ見ても良いものです。優花さんの地元は海が無いとなれば、夏は山ですか?」

「そうですね。キャンプしたりバーベキューしたり。あと、低い山なら登ったりっ」

「元気で活動的ですね。俺、優花さんのそういうところ......、好きです」