私の顔が赤いのは真夏の太陽のせいに違いないと考えた広務さんは、駐車場まで歩くと暑いからと言ってくれて私を駐車場が見える東口の軒下に残して、一人で車を取りに行った。

ほどなくして緩いカーブを描く駅のロータリーに、一台の白いセダンが停まった。

広務さんの愛車は、車名にはめっぽう疎い私でも知っているくらい有名な車だった。

道ゆく人が彼の車に視線を送る中、広務さんはハザードランプを点滅させて颯爽と車から降りると助手席側にまわり、私をエスコートしてくれた。

私は、その完璧すぎる立ち振る舞いにうっとりしながらも。”なんか、慣れてない?”と、またしても彼を疑ってしまった......。

そして、同時に。私なんかが彼の助手席に乗っていいんだろうか?とも思った。

とゆうか。

広務さんは、私なんかの一体どこを気に入ってくれたんだろう.......?

ーー結局。こう思うのは全部、自分への自信の無さから来る不安の表れ。

しかし、そんな気持ちは、彼と二人きりの空間の中で見事にかき消されていった。


スピードの出る車のシートは深くて、体をすっぽりと包み込むように出来ていて、とても座り心地がいい。

私はシートベルトをしっかりと締めて、もたれるように背中を預けた。

広務さんは両手でハンドルをしっかりと握り真剣な眼差しで前を見据えている。

その真剣な横顔に当然、私の胸は強く反応した。

ーー広務さんと触れ合いたい。

運転席と助手席という、触れ合いそうで触れ合わないもどかしい距離。

私は初デートの時を思い出した。

あの時、も同じことを思った。

あの時、私達は、まるで他人だった。

それでも、胸の奥ではお互いのことを求めていたからこそ、今日私達は一緒にいられるのだろうか?

まだ声には出来ない想いを胸に秘めて、私はハンドルを握る彼の横顔を見つめていた。

広務さんの髪は例えるならサラブレッドの尾のように、こげ茶色で艶がある。

そして、光沢のあるサラリとした髪が、かかる彼の輪郭は緻密に設計された城のように整っている。

中でも涼やかな瞳と高い鼻のバランスは、万人が羨む黄金比率。

それから品のある口元......。

私の瞳が広務さんの唇を捉えた瞬間、胸の鼓動がより速さを増した。

思う事はただ一つ。

彼は一体どんなキスをくれるんだろう......?

心臓は覚醒したように早鐘を打っているのに、それとは真逆に私の瞳はトロンとして彼の唇を見つめていた。

すると閉ざされていた彼の唇が、ふわっと開いた。

「照れるな......」