......何?
誰かが何か言った。
男性の声だった。
この声......。
そんなわけ、ない。
微かな期待と、たくさんの諦めに支配されながら。私は声がした方向を恐る恐る振り返った。
「......」
そして、言葉を失った。
「会う度、君はいつも泣いてる......」
「だって......っ、嘘でしょっ......! どうしてっ!?」
私は広務さんに会いにニューヨークに来た。でも、結局連絡すら付かず......。強い孤独感に襲われて救いを求めるようにタクシーに飛び乗り、母が居るというこのストリートまでやって来た。
なのに、ここで待ち構えていたものは、母ではなく途切れたはずの絆だった。
頬を濡らしながら振り向いた視線の先に捉えた姿。滲んだ視界の中心に揺らめく背の高いシルエット、艶めく黒髪、ネイビーのスーツ、......風がほのかにマリンシトラスの香りを運んだ。
「夢じゃないよね?」
今度は、はっきりと彼の声が聞こえた。
「......広務さん」
「夢じゃないって、確かめさせて」
彼は力強く安定した声色で宣言すると、滑らかなグレージュの石畳をしかと踏みしめながら一寸の戸惑いも感じさせることなく真っ直ぐに私の方へ歩んで来た。
私はそんな彼の様子に、これから自分の身に起こりうる結末が容易に分かった。
一歩一歩、彼が私に近づいてくる。
瞳が捉えた彼の姿は次第に等身大になって、そよ風が運ぶマリンシトラスの香りも深くなっていった。
彼の香りが鼻腔をくすぐるたびに愛おしさで胸が、ぎゅぅっと締め付けられた。
やがて私達は、お互いの息遣いがわかる距離まで接近した。
「抱き締めてもいい......?」
甘く囁くような問いかけに私は無言で頷いた。
そして、広務さんは白昼の大都会の街角で人目も憚らず私を強く抱き締めた。
「ああ......、夢じゃないんだ。優花の匂いがする。髪も頬の感触も声も、全部」
夢じゃない。
温かい胸、頬に触れるサラリとした黒髪。低くて安定した声。背中に感じる彼の逞しい腕。
「広務さん......会いたかった。愛してる」
「俺も。すごく会いたかった。優花、愛してる」
誰かが何か言った。
男性の声だった。
この声......。
そんなわけ、ない。
微かな期待と、たくさんの諦めに支配されながら。私は声がした方向を恐る恐る振り返った。
「......」
そして、言葉を失った。
「会う度、君はいつも泣いてる......」
「だって......っ、嘘でしょっ......! どうしてっ!?」
私は広務さんに会いにニューヨークに来た。でも、結局連絡すら付かず......。強い孤独感に襲われて救いを求めるようにタクシーに飛び乗り、母が居るというこのストリートまでやって来た。
なのに、ここで待ち構えていたものは、母ではなく途切れたはずの絆だった。
頬を濡らしながら振り向いた視線の先に捉えた姿。滲んだ視界の中心に揺らめく背の高いシルエット、艶めく黒髪、ネイビーのスーツ、......風がほのかにマリンシトラスの香りを運んだ。
「夢じゃないよね?」
今度は、はっきりと彼の声が聞こえた。
「......広務さん」
「夢じゃないって、確かめさせて」
彼は力強く安定した声色で宣言すると、滑らかなグレージュの石畳をしかと踏みしめながら一寸の戸惑いも感じさせることなく真っ直ぐに私の方へ歩んで来た。
私はそんな彼の様子に、これから自分の身に起こりうる結末が容易に分かった。
一歩一歩、彼が私に近づいてくる。
瞳が捉えた彼の姿は次第に等身大になって、そよ風が運ぶマリンシトラスの香りも深くなっていった。
彼の香りが鼻腔をくすぐるたびに愛おしさで胸が、ぎゅぅっと締め付けられた。
やがて私達は、お互いの息遣いがわかる距離まで接近した。
「抱き締めてもいい......?」
甘く囁くような問いかけに私は無言で頷いた。
そして、広務さんは白昼の大都会の街角で人目も憚らず私を強く抱き締めた。
「ああ......、夢じゃないんだ。優花の匂いがする。髪も頬の感触も声も、全部」
夢じゃない。
温かい胸、頬に触れるサラリとした黒髪。低くて安定した声。背中に感じる彼の逞しい腕。
「広務さん......会いたかった。愛してる」
「俺も。すごく会いたかった。優花、愛してる」


